近年、情報化社会が進展するにつれ、未来を担う子どもたちに必要な教育内容も大きく変化してきています。
その中でも、注目されているのが「STEAM教育」です。
STEAM教育では、単に知識を学ぶだけでなく、実践的な体験を通して学び、自分自身で考え、試行錯誤することで、成長することができるとされています。
21世紀型の教育として注目されており、子どもたちの将来を担う人材を育成するために、今後ますます必要とされる教育分野となることが予想されます。
今回はそんなSTEAM教育について、知っていきましょう。
STEAM教育の基礎知識
STEAM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)の各領域を統合した教育のアプローチです。
これらの学問分野を統合的に学ぶことで、子どもたちが創造力や問題解決能力を身につけ、未来の社会をリードするリーダーシップを育むことを目的としています。
誕生したのはアメリカ 当初は「STEM教育」
まず先にSTEM教育という概念がありました。
STEM教育は、科学、技術、工学、数学の4つの学問分野を重視する教育のアプローチです。
この概念は、2000年代初頭にアメリカで注目を集め始めました。
この時期に、科学や数学を専門的に学ぶ学生の数が不足しているとの懸念が生じ、科学的リテラシーや技術的スキルを強化することが社会全体にとって重要だと認識されたのです。
STEMという言葉を初めて使ったのは、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation、NSF)とされています。
ただし、この教育理念を最初に提唱した一人として特定の人物を挙げるのは困難で、これはむしろ教育政策や社会動向の中で自然発生的に形成された考え方と言えます。
そして、STEM教育の推進は、バラク・オバマ大統領の下で特に強調されました。
オバマ氏は、2009年の「教育のための改革」スピーチでSTEM領域への投資と教育改革の重要性を強調し、STEM教育の普及を全米的な取り組みとして推進しました。
STEMは、21世紀の競争力を持つ労働力を養成するための重要な要素と考えられてきました。
これらの分野が新しい産業とイノベーションの推進力となり、経済成長と社会の進歩に大きく寄与するからです。
しかしながら、STEM教育だけでは、生徒たちの創造力や想像力を十分に引き出すことができないという指摘がありました。
それが、STEM教育からSTEAM教育への変遷を促した一因です。
STEAM教育は、芸術をSTEM領域に組み込むことで、学生たちの創造力や革新性を刺激し、科学や技術だけでなく、より広範な視野で問題解決ができる能力を育てることを目指しています。
STEAM教育の誕生と目標
上述のように、21世紀の社会では単に科学的な知識や技術的なスキルだけではなく、創造力や感性、芸術的な視点も重視されるようになりました。
そこで「芸術(Arts)」をSTEMに加えた「STEAM教育」が提唱されました。
STEM教育における論理的思考や問題解決能力と、芸術教育における創造性や感性を組み合わせることで、よりバランスの取れた人材育成を目指します。
この概念は、2000年代に、RISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)のジョン・メイダ教授が主導して広められました。
彼は科学、技術、工学、数学だけでなく、芸術を含めた教育が生徒たちの創造力を刺激し、より全面的な視野を提供できると主張しました。
STEAM教育の特徴
STEAM教育の特徴としては以下のようなものがあります:
- 統合的な学び:STEAM教育では科学、技術、工学、芸術、数学の各領域を分断することなく、それらが連携して問題を解決する過程を学びます。そのため、単一の学問領域だけでなく、複数の学問を統合的に学ぶことが特徴です。
- 実践的な学び:STEAM教育では、実際の問題を解決するためのプロジェクトベースの学習が重視されます。生徒は自分たちで問題を定義し、解決策を設計し、実際にそれを実行します。その結果、理論だけでなく実践的なスキルも身につけることができます。
- 創造性の育成:芸術的な視点を加えることで、単に科学的な問題解決だけでなく、創造的な思考や表現力も重視されます。これにより、新たな発想やアイデアを生み出す能力を育てます。
- 協働学習:チームでのプロジェクトを通じて、協調性やリーダーシップ、コミュニケーションスキルを育成します。
STEAM教育の目標は、従来の教育に加え、芸術的な視点と創造性を統合し、批判的思考、問題解決、チームワーク、自己表現、革新的思考など、21世紀のスキルを育てることとされています。
STEAM教育を取り入れた保育・教育施設での活動例
実際にSTEAM教育の概念を取り入れた施設では、子供たちにどのような活動を提供するのでしょうか。
活動内容は年齢に合わせたものでなければなりませんから、幼稚園・保育園と小学校を分けて、活動の例をご紹介します。
もちろん各施設によって具体的な活動内容は異なりますから、一般的な活動例としてご覧ください。
幼稚園・保育園
保育園や幼稚園でSTEAM教育を取り入れた活動を行うことは、子供たちの創造力と好奇心を引き出し、科学的な思考を育てる素晴らしい方法だとされます。
以下、どんな活動があるか見てみましょう。
- 簡単な科学実験:子供たちは実験を通じて世界を学びます。水とオイルが混ざらない理由を説明したり、種が成長して植物になる過程を観察したりすることで、科学的な原理と思考を学びます。
- 芸術と工作活動:絵を描いたり、粘土で形を作ったり、リサイクル素材を使って工作を作ったりします。これにより、芸術的な表現と工学の基本的な概念を学びます。
- 数学的な遊び:ブロックやパズルを使って形やパターンを作り、数学的な概念を学びます。また、歌や手遊びを通じて数を数えたり、リズムを学んだりすることもあります。
- 自然の探索:公園や園庭での自然観察は、科学の基本的な理解を深めるだけでなく、子供たちの好奇心を刺激します。虫や植物を観察し、天気の変化を記録し、季節の変わり目を体験します。
- 物語や音楽を通じた学習:絵本や音楽を使って、物語を作ったり、音楽を演奏したります。これは芸術的表現と創造性を養うだけでなく、物語の構造(数学)、音の原理(科学)、楽器の作成(工学)など、他のSTEAM領域と結びついています。
これらの活動は、子供たちが科学、技術、工学、芸術、数学の各領域を自然に組み合わせて学ぶことを可能にすると考えられています。
また、これらの活動は基本的に楽しく、子供たちは遊びの中でSTEAMの概念を学んでいくことができるでしょう。
小学校
小学校でSTEAM教育を取り入れる場合、生徒たちはより深く科学的な概念に触れ、手を動かして物を作り、問題解決のスキルを養うことを目指します。
以下に、具体的な活動の例を挙げてみましょう。
- プロジェクトベースの学習:クラス全体で共同プロジェクトを行います。例えば、自分たちの学校の模型を作ったり、学校の庭で野菜を育ててみるといった活動です。これらの活動は科学、工学、数学などを統合したものであり、それぞれのプロジェクトは芸術的な要素(設計、装飾など)も含んでいます。
- 科学実験:科学の理論を直接実験で体験することで、学生たちは科学的な原理や科学的方法をより深く理解することができます。例えば、植物の光合成を理解するために、植物の成長を観察したり、物質の状態の変化を理解するために、氷を溶かしたり再び凍らせたりする実験などがあります。
- 工作活動:ブロックやカードボード、紙などを使って物を作る活動も効果的です。例えば、ブリッジビルディング(橋作り)チャレンジでは、学生たちは実際に橋を設計し、それがどれだけの重量を支えられるかを試すことで、工学と数学の基本的な原理を学びます。
- コーディング:初級者向けのコーディングプログラムを用いて、学生たちは基本的なプログラミングスキルを学ぶことができます。これは論理的思考と問題解決能力を養うのに役立ちます。
- アートと数学:アートと数学を結びつける活動も有効です。例えば、折り紙を使って幾何学的な形を作ったり、音楽とリズムを通じてパターンと数学的関係を学んだりします。
これらの活動は、学生たちが科学、技術、工学、芸術、数学の各領域を統合して理解し、自分自身で創造的な解決策を見つける能力を育てるのに役立つものとされます。
STEAM教育を家庭で取り入れる方法
STEAM教育は家庭でも取り入れることができます。
その場合も子供の年齢に合わせた方法にする必要がありますから、以下に、幼児と小学生の場合でそれぞれのアクティビティ例を提案します。
幼児の場合
- 感覚遊び:異なるテクスチャーや材料を使った遊びを提供します。例えば、粘土を使って形を作ったり、水と砂を混ぜてどのように変化するかを観察したりします。これにより、科学的な観察と芸術的表現を学びます。
- 数え上げ:日常生活の中で数を数える機会を見つけます。食事の時に果物を数えたり、階段を上がる時に段数を数えたりします。これにより、数学的な概念を自然に学びます。
- 絵本から学ぶ:科学、工学、技術、芸術、数学に関連する絵本を読むことで、これらの主題に興味を持つきっかけを作ります。
- 自然の探索:公園や庭で自然を観察し、生物や植物、天候について話し合います。それを絵や工作で表現することも効果的です。
小学生の場合
- 科学実験:簡単な家庭科学実験を行います。例えば、種を植えて成長を観察したり、水とオイルが混ざらない理由を調べたりします。夏休みの自由研究などにも使えますね。
- 野菜や果物を育てる:自宅の庭やプランターで野菜や果物を育ててみましょう。計画、植え付け、世話、収穫という一連のプロセスを通じて、生物学、数学、工学の概念を学びます。
- 工作遊び:レゴブロックやカードボードを使った建造物の制作や、簡単な機械の作成などを通じて、工学と芸術を学びます。
- アートと数学:折り紙やカリグラフィを通じて、芸術と数学の関連性を学びます。
これらのアクティビティは、子供たちが科学的な概念を自然に学び、創造的な問題解決能力を養うのに役立ちます。
ただし、これらの活動は子供たちが楽しめるものであるべきです。
遊びと学びを組み合わせることで、子供たちは自然にSTEAMの概念を学んでいくことでしょう。
STEAMの概念を組み込んだおもちゃ等も色々あります。⇓⇓
年齢に合わせたおもちゃや本を選んであげましょう。
STEAM教育を家庭で取り入れる場合に意識すべきこと
教育熱心な親であるほど、ついつい「こうした方がいいよ」と口を出してしまったり、自分が良いと思うことを子供にやらせようとしたりしがちですが、それでは逆効果かもしれません。
家庭では特に、子供の好奇心と興味を優先しましょう。
そのために、家庭でSTEAM教育を取り入れる際に親が気を付けるべきポイントを押さえておきましょう。
- 学びは楽しみであるべき:子供たちは自然と好奇心を持っていて、遊びを通じて学ぶことを愛しています。したがって、家庭でのSTEAM活動は楽しい遊びの形で行うべきです。子供たちが楽しみながら学ぶことで、彼らはより積極的に参加し、理解を深めることができます。
- 失敗は学びの一部:STEAM教育は試行錯誤を通じて学ぶことを奨励します。子供が課題を解決する際に、最初からうまくいかないことはよくあります。親としては、これを否定的に捉えず、むしろ失敗から学ぶ機会として捉えることが重要です。
- 子供の興味を尊重する:各子供は自分独自の興味と熱意を持っています。その興味を探り、それに基づいた活動を提供することで、子供はより深く学び、自主性を発展させます。
- 適切な資源を用意する:STEAM教育にはさまざまな資源が利用できます。子供の年齢と興味に適した教育キット、アプリ、ゲーム、本などを見つけて活用しましょう。
- 問いかけを大切にする:子供たちが物事について質問するとき、それは学びの機会です。その瞬間を捉え、子供が自分自身で答えを見つけるための質問を提供することが有効です。「なんでだと思う?」と聞き返すだけでも、子供の成長を促すことができます。
これらのポイントを頭に入れておくことで、親は子供たちのSTEAM学習を最大限にサポートし、彼らの成長と発展を助けることができるでしょう。
いかがでしょうか。
未来を担う子供たちの能力を総合的に伸ばすとして注目されているSTEAM教育、無理のない範囲でおうちでの遊びに取り入れたいですね。
親子一緒に、楽しく色々な遊びをやってみてください。