夫婦間のすれ違いや対立は、多くの場合、コミュニケーションの問題から生じます。
脳科学的な観点から夫婦間のすれ違いを解決するためには、いくつかの方法が考えられます。
ここでは男女間の脳構造の違いにも触れつつ、すれ違いを予防する方法をご紹介します。
脳の働き方の差を理解する
男性と女性の脳の違いについて学ぶことで、相手の視点や反応を理解しやすくなるかもしれません。
例えば、女性は一般的に感情や細部への注意が高く、コミュニケーションにおいては共感を求めるとされています。
一方、男性は解決策を模索し、問題解決に焦点を当てる傾向があります。
よくあるすれ違いの一つを例で見てみましょう。
妻:「会社の上司が毎日ちっちゃいことで注意してくるんだよね~」
夫:「そうなんだ。でもその上司の人はさ、少しでも環境を改善しようとしてるんじゃないかな」
妻:「まあそうかもしれないけど、あんまり言われるとやる気も下がるよ」
夫:「それはしょうがないけど、でも注意されないように自分が気を付ければ何も言われなくなるんじゃない?」
妻:「・・・・(チッ)」
いかがでしょうか。
夫の言うこと、間違ってはいないですよね。
でも妻にとっては「そういうことじゃない!」と言いたくなるのも事実。
何が「そういうことじゃない」のか、『正解』を見てみましょう。
妻:「会社の上司が毎日ちっちゃいことで注意してくるんだよね~」
夫:「そうなんだ。それは嫌だねぇ。ちっちゃいことってどんな?」
妻:「ペンを落としたら『集中力が足りない』とか、メールに誤字があるとわざわざ呼び出して『どこが間違ってるか分かるか』とか…」
夫:「それはめんどくさいね。とにかく他人に注意したがるタイプの人なのかな。気にしなくていいと思うけど、あんまりひどかったら抗議してもいいんじゃない?他の人も一緒にとかさ」
妻:「そうだね、まぁなるべく聞き流すようにするわ」
お分かりいただけたでしょうか。
ここで妻が欲しいのは「共感」です。
自分が嫌な思いをしていると話したのだから、「それは嫌だね、大変だね」とただ共感してほしいのです。
もっと言えば実際の現場を見てもいない夫からのアドバイスなんぞ最初から必要としていないのです。
しかし夫ははよくある傾向として解決策を提示しようとしてしまうため、最初の会話例のように「でもその上司はさ」と、妻にとっては全く的外れの方向に話を進めてしまうのです。
「正解」として示した会話例では「それは嫌だね」と共感を示した上で、「ちっちゃいことってどんな?」と妻の話に興味を持って質問をしています。
自分の意見をすぐに言うのではなく、あくまでも妻の話をもっと聞こうという姿勢です。
実際この方が現場の状況も少しは分かるでしょうし、妻の言う「ちっちゃいこと」がどの程度のことなのか、それは本当に注意されるべきことではないのかが判断できます。
今回の例は本当に割と小さなことだと言えるでしょうから、「めんどくさいね」ともう一度共感を示すことができます。
その上で最後に「気にしなくていい」「抗議してもいいかも」と自分の考えを述べれば、既に共感を得ることができた妻は満足していますから、素直に「そうだね」と夫の言うことを受け入れることができるわけです。
まとめると、夫は妻の発言に共感を示すことを意識してください。
たとえ妻の言うことがちょっと違うんじゃないかと思ったとしても、「そうか、君はそう思ったんだね」ととりあえず妻の心情を受け入れることです。
その上で自分の考えを伝えるようにすれば、妻も自分の言い分が間違っていることに気づくかもしれませんし、何よりも「夫はちゃんと私の話を聞いてくれる」と思うことでしょう。
逆に妻は、特に上記の会話例の愚痴のようなことを夫に言った場合、自分の思い通りの反応が来ない可能性が高いことを理解しましょう。
そして話の最初に言ってしまえば良いのです、「ただ聞いてほしいだけなんだけど」と。
欲しくもないアドバイスを言われるぐらいなら自分からはっきり要望を伝えた方が、ストレスはたまりません。
感情認知の強化
人の気持ちを読むのが苦手という人、また、結婚相手があまり感情を表に出さないタイプだという人にも効果的なのが感情認知を強化することです。
脳科学研究は、他人の感情を認識し理解する能力(感情認知)が、対人関係の成功に重要であることを示しています。
感情認知は、他人の感情を正確に理解し、その感情に適切に反応する能力を指します。
これは訓練で改善することができ、夫婦間でこれを強化することはコミュニケーションを改善し、理解を深めるのに役立つでしょう。
この能力を強化するには以下のような方法があります。
- 自己観察: 自分自身の感情を理解することから始めると良いでしょう。自分が何を感じているか、その感情が何に由来するかを認識することは感情認知の基礎です。
- 感情語彙の拡大: 感情を表現するための言葉を増やすと、自分自身と他人の感情をより具体的に、そしてより正確に理解できます。
- 非言語的な手がかりの注意: 表情、声の調子、身体の姿勢など、言葉以外の情報からも多くの感情の手がかりを得ることができます。
- 顔の表情: 人々は感情を顔に表現します。例えば、喜び、悲しみ、驚き、恐怖、怒りなどの基本的な感情は顔の表情を通じて普遍的に表現されます。他人の顔の表情を観察することで、その人が何を感じているのかを推測することができます。
- 視線: 目は「心の窓」とも言われ、視線の動きや方向は人々の心情や興味の対象を示すことがあります。相手が目をそらすと、それは不安や嘘、または何かを隠している可能性を示すかもしれません。一方、直接視線を合わせてくると、それは自信や誠実さを示すと言えます。
- 姿勢と身体の動き: 姿勢や身体の動きもまた、感情や態度を示す重要な手がかりです。開放的な姿勢(広く開いた手や胸を張った状態)は自信やポジティブな感情を、閉じた姿勢(腕を組む、身体を曲げる)は防御的な態度やネガティブな感情を示すことがあります。
- 声のトーン: 人々は言葉の意味だけでなく、声のトーンや速さ、大きさからも多くの情報を読み取ります。例えば、声が揺れているとき、それは興奮や緊張を示すかもしれません。一方、低い声やゆっくりとした話し方は、落ち着きや自信を示すことがあります。
- エンパシーの実践: 他人の視点を理解し、その人がどう感じているかを想像する練習をします。これはロールプレイやケーススタディを通じて行うことができます。
- フィードバックを求める: 他人の感情を理解したつもりでも、それが正確かどうかを確認するためにフィードバックを求めることは重要です。これにより、自分の感情認知の精度を改善することができます。
これらの方法は、一度にすべて実践する必要はなく、一つずつ取り組んでいくことが効果的です。
そして、感情認知の強化は時間と練習を必要としますが、これによりコミュニケーション能力と人間関係は大きく改善されるでしょう。
感情的な安全性の確保
感情的な安全性というのは、個々人が自分自身の感情を自由に表現し、それが無視されたり、否定されたり、侮辱されたりすることなく、理解と尊重を受ける状態を指します。
家庭内で感情的な安全性を確保することは、夫婦間での健康的な関係を築くための基礎であり、以下のような方法で促進することができます。
- オープンなコミュニケーションを確保する: 自分自身の感情を率直に表現するとともに、相手が感じていることを理解しようとする努力が必要です。自分の感情を表現するときは、「私はこんな風に感じています」という一人称の表現を使うと良いでしょう。
- 互いの感情を尊重する: 相手の感情が自分のものと異なる場合でも、その感情を尊重し、理解しようとする態度が大切です。無視したり、否定したり、侮辱したりすることは避けましょう。
- 非批判的な態度を持つ: 相手の感情や見解に対して批判的な反応を避け、受け入れる態度を持つことが重要です。相手の感情や見解を尊重することで、安全な環境を確保することができます。
- エンパシーを示す: 自分の感情を理解し、共感する力(エンパシー)は、感情的な安全性を確保するために必要なスキルです。相手の視点から物事を見ることで、その人がどのように感じているかを理解することができます。
- 信頼を築く: 互いに信頼関係を築くことで、感情的な安全性は強化されます。信頼は時間とともに築かれ、互いの感情を尊重し、理解し、サポートすることで育てられます。
これらのステップは、自己理解、自己表現、共感の能力、および相手との信頼関係の構築を通じて、感情的な安全性を確保するための基本的なガイドラインとなります。
これらの能力は、コミュニケーションスキルの一部であり、練習と経験を積むことで強化されます。
自分の気持ちを話すのが苦手という人も、夫婦関係をより良いものにするために少しずつでも心を開いて、オープンに話をするように心がけてみてください。