愛はあるのに性的欲求を感じない…そのとき脳内では何が起きている?セックスレスを科学的に解説

夫婦のセックス

相手に対する愛情は変わらずあるのに、いつのまにか性的な欲求は感じなくなっている・・・

これは夫婦間で起こり得る悩ましい状況の一つですが、この状況が続くとセックスレスに陥ってしまう可能性が高まります。

セックスがないことが二人の間で問題にならないのであれば悩む必要はないのですが、不満が溜まってしまうと夫婦関係の破綻にも繋がるかもしれません。

相手のことはちゃんと好きなのに、セックスがしたいと思えない…この現象はなぜ起こるのでしょうか?

今回は、脳科学や生物学的な観点から、セックスレスの原因となる「愛はあるのにセックスができない」という状況を分析していきましょう。

パートナーに性的欲求を感じなくなるという現象の説明

夫や妻に対して愛情を感じているにも関わらず、性的欲求は全く感じないという状況は実際にあり得ます。

もしかしたら経験済みだという人も居るかもしれません。

これは医学的には「性欲減退症」と呼ばれる症状です。

また、この状況を脳科学的に見ると、「性的欲求」と「ロマンティックな愛情」は、別の脳のプロセスで制御されているということを示しています。

以下、それぞれについて解説します。

性的欲求減退症(HSDD)

夫婦間で相手に性的欲求を感じないという状況は、医学的には一般的に「性欲減退症」または「低性欲」(Hypoactive Sexual Desire Disorder, HSDD)と呼ばれる現象に該当する可能性があります。

これは性的欲求や性的ファンタジーが長期的に低下または存在しない状態を指します。

性欲は複雑な生物学的、心理学的、社会文化的要素が組み合わさったもので、ホルモンバランス(特にテストステロンとエストロゲン)、神経伝達物質(特にドーパミンとセロトニン)、一般的な健康状態、薬物の影響、ストレスレベル、精神的な問題(例えば、抑うつや不安)、そしてパートナーとの関係性など、多くの要因が影響します。

特に生物学的な側面に焦点を当てると、以下の要素が主要な役割を果たします:

  1. ホルモンバランス
    テストステロンとエストロゲンは主要な性ホルモンであり、これらのバランスが性欲に直接的な影響を及ぼします。
    これらのレベルが低下すると性欲も低下する傾向があります。
  2. 神経伝達物質
    ドーパミンは「快楽ホルモン」とも呼ばれ、性的欲求や興奮の感じに重要な役割を果たします。
    逆に、セロトニンは一般的に欲求を抑制する作用を持つと考えられています。
  3. 健康状態
    全般的な健康状態も性欲に影響します。
    たとえば、心血管疾患、糖尿病、肥満、高血圧などの病状は性機能に悪影響を及ぼす可能性があります。
  4. 薬物の影響
    一部の薬物、特に抗うつ薬や抗不安薬は、性欲を減少させる副作用を持つ可能性があります。

ただし、これらはすべて個々の人により影響が異なるため、具体的な症状や体験については専門家に相談することが重要です。

また、パートナーとの良好なコミュニケーションが、このような問題の解決においても重要な役割を果たします。

性的欲求とロマンティックな愛情の分離

性的欲求とロマンティックな愛情は、しばしば一緒に経験されますが、脳科学的にはこれらは異なる脳のプロセスで制御され、独立して経験されることもあります。

つまり、人はパートナーに深い愛情を感じることができる一方で、同時にその人に性的な欲望を感じないこともあるのです。

具体的には、性的欲求は脳の前頭葉の下部と視床下部によって制御されます。

これらの領域はリビドー(性的欲求)の発生に対して中心的な役割を果たしており、性ホルモンの影響を受けやすいです。

このため、ホルモンのバランスの変化(特にテストステロンとエストロゲン)が性欲に大きな影響を与えます。

一方で、ロマンティックな愛情は、脳の報酬システムや情動領域(例えば、内側前頭葉皮質や帯状皮質)が関与します。

これらの領域は愛する人に対する愛情や絆を生み出す役割を果たし、オキシトシンやバソプレッシンといった「社会的絆」を形成するホルモンに影響を受けます。

具体例としては、以下のような状況が考えられます:

  1. アセクシャル(無性愛者):
    夫か妻がアセクシャルである場合、相手に対して性的欲求を感じることは非常に少ないと考えられます。
    アセクシャルとは、自己の性的指向として他者に性的に引きつけられる感情を全く、もしくはほとんど経験しない人を指します。
    アセクシャルな人々は性的欲求が全くないわけではなく、「他者に対して」性的な欲求を感じることが少ない、もしくは全くないという特性を持ちます。
    しかし、他人に対する深い感情的な絆やロマンティックな愛情を感じることは可能です。
    この場合、彼らは自分自身が他人にロマンティックな愛情を抱く一方で、性的な欲望は感じません。
  2. 長期間のパートナーシップ:
    長期間のカップルでは、時間の経過とともに性的欲望が減退することがあります。
    しかし、その間にもパートナーに対する深い愛情や絆は維持されることが多いです。
    この状況は、結婚や長期的な関係にある人々に特によく見られます。
    恐らく、これが原因でセックスレスに陥るカップルは多いのではないかと思われます。
    愛情や絆はあるからこそ苦しいのがこのパターンですね。
    これについては下記で詳しくまとめていきます。

これらの例は、性的欲求とロマンティックな愛情が必ずしも一致しないことを示しています。

一方が存在するからと言って、もう一方が自動的に存在するわけではないのです。

長期間のパートナーシップにおいて性的欲求が減退する理由と対策

長期間のパートナーシップにおいて性的欲求が減退する現象は、一部は脳の自然な働きと進化生物学に関連しています。

以下、脳科学的な観点を詳しく解説していきます。

脳科学的な説明

脳科学的な観点から考えると、長期的な関係で性的な欲求がなくなっていくという現象の背後には、主に「新規性の減退」および「ハビチュエーション(慣れ)」があります。

  1. 新規性の減退:
    人間の脳は新規性に反応し、新しいパートナー、新しい経験、新しい環境などに対して興奮しやすい傾向があります。
    これは、脳の報酬システムが活性化し、ドーパミンという物質が放出されることで、快楽を感じることができます。
    パートナーとの関係が新鮮な初期段階では、この新規性によって性的欲求が高まることがあります。
    しかし、時間が経つにつれて新規性は減退し、その結果として性的欲求も減少することがあります。
  2. ハビチュエーション(慣れ):
    ハビチュエーションとは、同じ刺激に反復的にさらされることで反応が減少する、という心理学的な現象です。
    例えば、初めて見る美しい絵画には強く反応するかもしれませんが、何度も見ているうちにその反応は減退します。
    これは生物の生存にとって有用な機能であり、無駄なエネルギーの消耗を避け、新しい重要な刺激に対する反応能力を保つ役割があります。
    しかし、この現象は性的関係にも適用され、パートナーに対する性的反応が時間とともに減退することがあります。

ただし、これらはあくまでも「脳科学的観点」であり、これらの現象が必ずしも全ての人や全ての関係に当てはまるわけではありません。

個々の関係性や個人の性質、さまざまな生活環境やストレス要素など、他の要因が性的欲求に影響を及ぼすこともあります。

他の要因に関してはこちらの記事をご覧ください⇒https://fuufuno.com/sexless/

脳科学で考えるセックスレスの予防方法

長期的な関係で性的欲求が減退することを防ぐためには、以下のような点に注意することが有効であると考えられます。

  1. 新規性の追求:
    前述したように、新規性は脳の報酬システムを刺激し、ドーパミンの分泌を促します。
    そのため、パートナーとの関係の中で新たな経験を積極的に作り出すことが重要です。
    これは、新しい趣味を一緒に始める、一緒に新しい場所へ旅行する、セクシャルな状況で新しいことを試すなど、さまざまな形で可能です。
  2. 予期しないサプライズ:
    人間の脳は予期しない報酬に対して特に強く反応します。
    これはドーパミンの放出をさらに促し、興奮や満足感を引き起こします。
    したがって、想定外のサプライズやギフトをパートナーに提供することは、新鮮さを保ち、関係性を活性化させる助けになります。
  3. 身体的な健康:
    身体の健康状態は脳と密接に関連しています。
    特に、適度な運動は血流を改善し、エンドルフィン(体内の自然な「幸せホルモン」)の分泌を促します。
    さらに、運動はストレスを緩和し、睡眠の質を向上させるので、これらは性欲を維持するために重要です。
  4. メンタルヘルスの維持:
    長期的なストレス、不安、うつ病などのメンタルヘルスの問題は性欲にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。
    これらの問題を管理し、必要に応じて専門家の助けを求めることは、性的欲求を維持するために重要です。
  5. 深い絆と情緒的な接続の維持:
    セクシャリティは、単に物理的な刺激だけでなく、深い情緒的な結びつきによっても強化されます。
    互いの感情を共有し、互いの需要を尊重し、労わることで深い絆を保つことは、長期的な関係での性的欲求を維持するのに重要です。

以上のような要素を組み合わせて、一貫したアプローチを取ることで、長期的な関係における性的欲求の減退を防ぐことが可能です。

脳科学で考えるセックスレスの解消方法

既にセックスレスだと感じている夫婦間で、性的欲求を復活させるためには、以下の実践的なアプローチが有効です。

予防方法と重複する部分もありますが、夫婦関係の改善方法として改めてご紹介します。

  1. 新規性を導入する:
    新たな経験は脳の報酬システムを刺激し、ドーパミンの分泌を促します。
    これにより、性的欲求を刺激することができます。
    例えば、新しい趣味を始めたり、一緒に新しい場所に旅行したり、ベッドルームで新しいことを試みるなどです。
  2. リラクゼーションとストレスマネジメント:
    長期的なストレスは性欲を抑制します。
    これは、ストレスがコルチゾールというホルモンを増加させ、その結果、性欲を低下させる可能性があるからです。
    リラクゼーションテクニック(例えば、深呼吸、瞑想、ヨガ)の実践や、定期的な運動、十分な睡眠、健康的な飲食などを通じてストレスを管理することで、性欲を高めることが可能です。
  3. カウンセリングやセラピー:
    セックスセラピーは性的欲求の問題を改善するための有効な手段であり、カップルセラピーもまた、情緒的な絆やコミュニケーションの改善に有用です。
    セラピストは新たな視点を提供し、夫婦がそれぞれの性的な欲求やニーズについてオープンに話し合うことを助けてくれます。
  4. ホルモンのバランスをチェックする:
    年齢とともに、特に閉経後の女性や中年以降の男性では、性ホルモンのバランスが変わることがあります。
    これは性欲に影響を与える可能性があります。
    医師と相談し、ホルモン補充療法が適切であるかどうかを検討することも一つの選択肢です。
  5. 自己理解とパートナーへの理解:
    自分が何を求め、何を感じ、どのように反応するのかを理解することは、性的欲求を高める上で重要です。
    同様に、パートナーが何を求め、何を感じ、どのように反応するのかを理解することも重要です。
    これにより、互いのニーズに応え、性的欲求を向上させる可能性があります。
  6. 感情的な接続を深める:
    深い絆や感情的な接続は、セクシャリティを強化します。
    お互いに感情や気持ち、思っていることを共有し、互いの需要を理解し、尊重することは、性的欲求を再び感じるための重要なステップとなります。

もちろん、個々の状況やニーズは人によりますので、これらの提案が必ずしも全ての人に適用できるわけではありませんが、1つの考え方として参考にしてみてください。


以上、脳科学的な観点から性欲が減退する原因やセックスレスになってしまうことを予防する方法を考えてみました。

性欲には色々な要素が絡んでいる上に、一人だけの問題ではなく夫婦二人の問題なので、なかなか複雑なものです。

しかし、科学的な観点から理屈を説明できるものだということはお分かりいただけたと思います。

セックスレスで悩んでいる人や、パートナーや自分自身の性的欲求の低下を感じている人は、「こういうことなのか」と理解することができたのではないでしょうか。

理屈が分かれば夫婦間で話し合うときも冷静でいやすいでしょうし、より意味のある解決策を模索することにも繋がると思います。

そういった状況にある方々の参考になれれば幸いです。

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