妊娠中の女性は普段とは違う変化を経験します。
お腹が大きくなるのはもちろんのこと、他にも色々な変化が起こるので、人によっては不安を感じたり自分自身の変化についていけなくなったりするかもしれません。
ですが、それはお腹に赤ちゃんがいるときにしか経験できない貴重なものですし、赤ちゃんが元気に育っている証拠でもあります。
女性としては嬉しい変化ばかりではないというのも事実ですが、母になるという大きな節目で起こる変化ですから、前向きに捉えたいですね。
今回は、変化の原因となるホルモンについてと、実際にどんな変化が起こり得るのか、そしてそのためにどんなケアが必要なのかを見ていきましょう。
もちろん、変化の有無や程度は人それぞれです。
誰にでも全てが当てはまるわけではありませんし、ここに書いていない変化を経験する人も居るということを前提としてお読みください。
色んな変化の原因!ホルモンの変化
妊娠中の女性の体では、多くのホルモンが分泌量を増やし、その結果、身体的・心理的な変化が生じます。
様々な変化の原因となるホルモンの種類をいくつか挙げてみましょう。
- ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG): 妊娠初期に分泌されるこのホルモンは、黄体を維持し、プロゲステロンの生産を刺激します。hCGは、胎盤の形成や維持に必要な役割を果たし、妊娠が進むにつれて増加します。hCGの高レベルは、吐き気や嘔吐(つまり、つわり)を引き起こすことがあります。
- プロゲステロン: 妊娠全体を通じて分泌量が増加するこのホルモンは、子宮の内膜を厚くし、胎盤の成長を助けます。また、免疫システムの反応を抑制し、胎児が母体から排除されるのを防ぎます。プロゲステロンは、乳房の肥大、心拍数の増加、便秘、むくみ、疲労感などを引き起こすことがあります。
- エストロゲン: 胎児や母体の器官や組織の発育、成熟を促します。妊娠中に分泌が増加すると、乳房と子宮が成長し、血管が拡張します。これにより、胸が張る感じや頻尿、鼻血、偏頭痛が引き起こされることがあります。
- プロラクチン: 乳腺の発達と母乳の生産を促進し、出産後の授乳に備える役割を果たします。
- 酸化窒素: 血管を拡張し、血流を改善します。
- リラキシン: 骨盤の靭帯を緩め、出産を容易にします。
- 胎盤ラクトゲン(hPL)またはヒト絨毛性ソマトロピン: 妊娠中期から後期にかけて分泌されるこのホルモンは、母体の乳腺を発達させ、乳の分泌を準備します。また、母体のインスリン感受性を低下させ、高血糖を引き起こすことで、胎児への栄養供給を増加させます。
これらのホルモンは、妊娠中の女性の体内でバランスを保ちつつ働きます。
それぞれのホルモンの働きが互いに関連し、妊娠を維持し、子宮内環境を最適化し、出産に備えることを可能にするのです。
これらのホルモンの分泌の増加に伴う副作用(例えば、つわり、むくみ、疲労感など)が、妊娠期間中に女性が経験する変化や不調の正体ということです。
妊娠中の女性に起こる変化
上記ホルモンの分泌量の変化や、お腹の中で大きくなる赤ちゃんの影響で、母体には様々な変化が現れます。
お腹が大きくなるのはもちろんですが、他にはどんな変化が起こるのでしょうか。
ここでは特に顕著な変化が見られる体重、胸、肌、そして体調と心の変化について詳しく見ていきましょう。
体重の変化
妊娠中の体重増加のパターンは人により異なりますが、以下に一般的なパターンを示します。
- 最初の3ヶ月:1-2 kgの増加。ただしつわりによって体重が減る人もいますが、この時期の体重減少は心配要りません。
- 4-6ヶ月:体重が徐々に増え、全体で約2-4 kgの増加
- 最後の3ヶ月:体重が最も速く増え、一般的には週に約0.5 kg増えます。
くり返しますがこれらのガイドラインは一般的なもので、当てはまらないからと言って不健康というわけではありません。
ちなみに、お母さんになる女性の妊娠前のBMI(体格指数)により、妊娠中の理想的な体重増加は異なります。
妊娠中の体重管理は、お母さん自身の健康、赤ちゃんの発育、そして妊娠後の体重戻しにも大きく影響する重要な要素です。
以下に妊娠中の標準的な体重増加のガイドラインを示します。
- BMI<18.5(低体重)の場合: 妊娠全期間で約12.5-18キログラム
- BMI 18.5-24.9(標準体重)の場合: 妊娠全期間で約11.5-16キログラム
- BMI 25.0-29.9(肥満度1)の場合: 妊娠全期間で約7-11.5キログラム
- BMI >30.0(肥満度2以上)の場合: 妊娠全期間で約5-9キログラム
病院でも、自分の体重によって「これぐらいの範囲内で体重が増えるようにしていきましょう」と言われることが多いです。
ただ、これらの数値はあくまで目安であり、個々の健康状態や複数妊娠(例えば双子)の場合などには適応しないこともあります。
医療専門家と一緒に、個々の妊娠状況に適した健康的な体重管理計画を立てることが重要です。
胸の変化
妊娠中の乳房は、ホルモンの影響を受けて様々な変化が現れます。
妊娠初期から乳房が腫れることもあります。
これは、ホルモンの分泌が増え、血流が増加することによるものです。
乳房の腫れは個人差がありますが、ブラジャーがきつく感じられることもあります。
また、妊娠中は胸に痛みや張りを感じることもあります。
これは、乳腺の発達や乳汁の準備が進んでいる証拠です。
特に妊娠後期になると、この症状がより強く現れることがあります。
痛みや張りを和らげるためには、適切なブラジャーの選び方やマッサージなどのケアが重要です。
妊娠中の胸の変化は、それぞれの女性によって異なるものですが、ほとんどの女性が乳房の腫れや痛みを経験します。
これらの変化は、妊娠の証とも言えます。
妊娠中の胸の変化を受け入れ、適切なケアを行うことで、より快適な妊娠生活を送ることができるでしょう。
肌の変化
妊娠中の肌の変化妊娠中は、ホルモンバランスの変化や体内の血液量の増加などによって、肌の状態も変化します。
これによって、以下のような肌トラブルが起こることがあります。
まず、妊娠線と呼ばれる赤紫色の線ができることがあります。
これは、お腹や胸などの部位の皮膚が引き伸ばされることによってできるもので、結果的に皮膚の組織が破れてしまうと線ができます。
また、肌の乾燥も妊娠中によく見られる症状です。
また、ホルモンバランスの変化により、皮脂分泌量が減少するため、肌の乾燥が起こりやすくなります。
乾燥肌になると、肌がかゆくなったり、粉を吹いたりすることもあります。
さらに、色素沈着も妊娠中によく見られる肌の変化です。
特に顔や首、腋の下などが影響を受けやすく、ブラウンスポットやメラニンの沈着が起こることがあります。
これは、ホルモンの影響によるもので、紫外線を浴びることで悪化することもあります。
日焼け止めの使用や、帽子や日傘の利用など、いつも以上に紫外線対策を行うことが大切です。
さらに、かゆみや肌荒れも妊娠中によく起こる肌のトラブルです。
ホルモンの変化により、肌の敏感度が増し、かゆみや湿疹が起こることがあります。
また、ストレスや環境の変化も肌荒れの原因になることがあります。
妊娠中の肌の変化は、他の変化と同じく女性によって異なります。
一人ひとりの個別の症状に合わせて、適切なケアを行うことが大切です。
定期的な皮膚のチェックや、助産師や医師との相談も忘れずに行いましょう。
体調の変化
妊娠初期に特によく見られる症状はつわりです。
吐き気や嘔吐、食欲不振などが起こることがあります。
食事の摂取が難しくなる場合もあるため、小さな食事を頻繁に摂ることや、食べ物の匂いや味に敏感な時期には、好きなものを食べることが大切です。
胃もたれや便秘は、妊娠中期以降によく起こる症状です。
胎児の成長に伴って子宮が大きくなり、胃や腸に圧力がかかることで起こります。
また、妊娠中に分泌されるプロゲステロンというホルモンは、筋肉をリラックスさせる働きがあります。
これにより、腸の動きが遅くなり、食べ物がゆっくりと消化されるようになった結果、便秘が生じることがあります。
食事の量を少なめにしたり、水分を多くとって消化の良い食べ物を選ぶことで緩和することができます。
あまりにもひどいときはかかりつけの産婦人科の医師に相談しましょう。
場合によっては下剤を処方されることもあります。
腰痛は、妊娠後期によく見られる症状です。
妊娠によって骨盤が緩み、姿勢が崩れることで腰に負担がかかります。
適度な運動や姿勢の正しい保持、腰を支えるマタニティベルトの使用などが腰痛の緩和に役立ちます。
妊娠後期には、むくみもよく見られます。
体内の血液量が増えることや、子宮の圧迫によって血液や体液の循環が悪くなり、足や手がむくみやすくなります。
定期的な運動や足のマッサージ、長時間の立ち仕事や座り仕事を避けることが大切です。
妊娠中は、時期に関わらず「つらいな」と思ったら無理をせず休むことが何より大切です。
お腹の赤ちゃんのためにも、身体を休めることを心がけましょう。
心の変化
妊娠中は、身体だけでなく心にも様々な変化が起こります。
その中でも、不安やストレスは多くの妊婦さんが経験することです。
妊娠中の不安やストレスは、赤ちゃんにも影響を与える可能性があるため、適切なケアが必要です。
妊娠中の不安は、体の変化や出産に対する不安、将来の育児に対する不安など、さまざまな要因から発生することがあります。
特に初めての妊娠では、不安や心配が増えることが多いです。
加えてホルモンバランスの変化によりイライラしやすくなったり、涙もろくなったりする人も居ます。
また、仕事や家事、人間関係の問題、経済的な不安などがストレスの原因になることもあります。
妊娠中の不安やストレスが続くと、身体の疲労感やイライラが増え、睡眠の質も低下することがあります。
不眠によって体力が低下し、さらにストレスが増える悪循環に陥ることもあります。
妊娠中は平常時とは違いますから、本人にもどうしようもないことも多いです。
なるべくゆったりと穏やかな気持ちで妊娠期間を過ごすためには、まずは本人がセルフケアの方法を知っておく必要があります。
変化に対応するためのセルフケア方法
変わっていく身体やコントロールできない心の変化に、ストレスを感じてしまう人も多いようです。
しかし、妊娠期間というのは自分の中に宿った赤ちゃんと文字通り繋がって過ごす、とても貴重な時間です。
できれば穏やかな気持ちで、より多くの幸せを感じながら過ごしたいですし、それが赤ちゃんの健やかな発育にも繋がります。
適切に身体と心のケアをすることで、心に余裕を持てるようにしていきましょう。
胸のケア
妊娠すると多くの女性が胸の張りや、それに伴う痛みを感じるようになります。
サイズも1~2カップ大きくなるので、普段使っているブラジャーではきつくなることが多いです。
無理して小さいブラを使っていると、痛みやつわりがひどくなることもあるので、妊娠初期からマタニティブラを着用することがおすすめです。
授乳ブラとも呼ばれるマタニティブラは、妊娠中から産後の授乳期まで使えるので早めに用意すると良いでしょう。
ワイヤー入りの物もありますが、個人的にはノンワイヤーの方が好きですしおすすめです。
妊娠中はお腹も大きくなってくるので、伸びの良いノンワイヤーの方が、苦しさを感じずに過ごすことができます。
最近ではデザインも可愛いものが増えていますから、楽しみながら自分に合ったものを選んでみてください。
肌のケア
お腹にできてしまう妊娠線は、妊娠中の女性にとって一つの悩みですよね。
お腹以外にも胸、太ももなど、皮膚が伸びやすい部分にできやすいです。
妊娠線ができると、その後のケアも難しくなるため、予防が大切です。
妊娠線予防のためのケア方法としては、日々の保湿が非常に重要です。
妊娠線予防クリームやオイルなどを使用して、乾燥しないように保湿しましょう。
お風呂上りなど、肌がしっとりした状態で使うと効果的です。
また、妊娠中には適度な運動も大切です。
適度な運動によって血液の循環が良くなり、皮膚の弾力性も高まります。
ただし、無理な運動や激しい運動は避け、妊娠中に適した軽い運動を行うようにしましょう。
さらに、食事にも注意が必要です。
ビタミンCやビタミンE、亜鉛などを含む食材を積極的に摂取することで、皮膚の健康を保つことができます。
また、水分摂取も忘れずに行いましょう。
妊娠線予防のためには、これらのケアを妊娠初期から継続することが重要です。
早めの対策を行うことで、妊娠線の予防効果が高まると言われています。
日々のケアを怠らず、早めの対策を行うことで、妊娠線の予防に努めましょう。
心のケア
妊娠中の不安やストレスを軽減するためには、まずは自分自身と向き合い、ストレスの原因を見つけることが大切です。
それを人に話すことで、心の負担を軽減することもできます。
妊娠中の不安やストレスを軽減するためには、家族や友人、パートナーなど周囲のサポートを頼ることも重要なのです。
話し相手がいることで心の負担を共有し、解消することができます。
また、医師や助産師に相談することも大切です。
専門家のアドバイスを受けることで、不安やストレスを軽減する方法やケアのポイントを学ぶことができます。
また、自分でリラックスする時間を作ったり、マタニティヨガなどに取り組むことでもストレスを軽減できます。
適度な運動や、趣味、好きなことをする時間を持つことも効果的です。
妊娠中の不安やストレスは、お母さん自身の身体や赤ちゃんに影響を与える可能性があります。
そのため、適切なケアをすることが重要です。
自分自身と向き合い、周囲のサポートを受けながら、不安やストレスを軽減していきましょう。
妊娠中はどうしても、身体的にも精神的にも自由がきかないことがありますが、それも含めて貴重な時間だと受け入れることが大切です。
周りのサポートも頼りながら、赤ちゃんと会える日を楽しみに過ごしてください。